黒い迷宮:ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実
津田マガやcakesで、ライターの速水健朗さんが「絶歌」と比較する形で紹介していたので読んでみました。
黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実 (ハヤカワ・ノンフィクション)
- 作者: リチャードロイドパリー,Richard Lloyd Parry,濱野大道
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/04/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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2000年7月に行方不明となった英国人女性ルーシー・ブラックマンさん。
ごくふつうの若い女の子であった彼女は、お小遣い稼ぎのために来日し、六本木でホステスとして働いていました。
彼女を殺害したのが、織原城二という男。
それまでも、何人もの白人女性を薬物で眠らせた上でレイプしていました。
異国の地でかえらぬ人となった愛する娘を探すブラックマン一家の闘い、アウトサイダーが集う六本木という街、硬直した日本の警察組織、そして織原の過去について、来日20年超の英国人ジャーナリストが描いていきます。
どなたかのブログで拝見した本書の感想で、
日本人AV女優の蒼井そらが中国・韓国で人気な理由と、
日本人男性が白人女性を六本木でかしづかせ、それを楽しむことを
同列に語っていたのを読み、なるほどなと思いました。
世界には圧倒的なパワーの序列がある。序列の高いグループの女性をもてあそぶ気分を味わう、倒錯的な娯楽が男性の世界には必要とされている、求められているのだということを、あらためて理解しました。彼らが生きている上で自然と負う、傷ついたプライドを癒すために。
本書では織原が日本に帰化した在日韓国人2世であることから、いわゆる「在日」の問題が語られていますが、それも、日本社会のパワーの序列、という文脈で私は解釈しました。
「ルーシー・ブラックマンが殺されたのは、彼女が愚かだったのではなく、単なる偶然だった」
と本書で著者は、結論づけているいっぽうで、犯人の織原城二の動機については、著者はそこまで踏み込むことなく終わります。
もしこれが佐野真一のノンフィクション、もしくは高村薫のクライムノベルならば、もっと彼の動機を、著者の想像力で補完してみたり、いろいろな推論で踏み込みそうな気もします。在日を弱者として描き、その負の側面のアウトプットとして殺人に至った、みたいに。
そうはならない本書の、ドライな距離感は心地よいものでした。
一方で、どこか物足りないような気もする。
その物足りなさの要請で、佐々木俊尚さんがいう「マイノリティー憑依」なる物語が生まれたのかしら、と思います。
重厚な本でしたが、土日かけて一気に読み終わってしまいました。
私はかつてg2を購読するような大学生で、ノンフィクションを読むのは好きだったはずなのですが、
昨今、世間ですっかり忌み嫌われているサヨクっぽさを、私も同様にあまりよく思っていないことから、サヨクっぽい著者満載ジャンルともいえるノンフィクションを読むことから、しばらく遠ざかっていました。あるいは過去の自分の黒歴史として封印していたともいう。
でも、このような重厚なストーリーのノンフィクションを読んで、久しぶりに自分が好きだったものを思い出せたような気がしました。